ずいとん坊~明科・本町

むかし、むかしのこと、明科に地蔵堂があり、お坊さんが一人住んでいました。名を「ずいとん坊」といい、これがまた、お勤めが大嫌いで、お経をあげたことなど、まるでない怠け者でした。

          024                                 (明科・中川手にある地蔵堂)

毎日、朝から晩まで遊びほうけていたある日のこと、その夜も遅く帰ってきて、寝床に入るやいなや、グーグー眠り込んでしまいました。すると、真夜中になって「ずいとん坊!ずいとん坊!」と呼ぶ声に目を覚ましました。

「へっ?だれだい」。起き上ってみたものの返事はなく、辺りは真っ暗やみです。ずいとん坊は、夢でも見たのかと思い、そのまま布団に入ってしまいました。

少したつとまた、「ずいとん坊!ずいとん坊!」と言う声で目を覚まし「だれだやー、わしの名を呼ぶのは。どこかで弔いでもできたのかい?」と、大声で叫んだものの、またもとの静けさに帰ってしまいます。「気のせいか」と、のんき者のずいとん坊はそのまま、布団に入って寝てしまいました。

そんなことがあっても気にせず、次の日も遊んで帰ってきては、お勤めもせず高いびきをかいて寝ていました。しかし、真夜中になると「ずいとん坊!ずいとん坊!」の声で目を覚ましました。

こんなことが次の夜も、その次の夜も続きました。さすがのずいとん坊も気味悪く、怖くなってきました。そして、今夜こそはあの声の正体をつきとめてやろうと、珍しく遊びに行くのを取りやめ、お経をあげて夜の更けるのを待ちました。

          007                   (地蔵堂のある龍門寺の山門近くに立ち並ぶ六地蔵)

お経をあげながら、ついうとうとしていた時、「ずいとん坊!ずいとん坊!」と、あの呼ぶ声がしました。「おっ、来たな」とずいとん坊の眠けは吹き飛んでしまいました。

しかし、真っ暗やみです。目をかっと見開いて、念仏を唱えながら雨戸の隙間からもれる月の光を頼りに、なにやら動くものを見つけました。

目を凝らして見ていると、節穴にしっぽを入れて「ズイ」、雨戸を蹴って「トン」、抜くときに「ボウ」と音がして、それで「ずいとん坊、ずいとん坊」と聞こえるのです。

それを、繰り返しています。「ははあん、こりゃムジナだわい。いたずらしおって、よおーし、見てろよ」。ずいとん坊は、そおーっと節穴に近づいて行って、節穴に入ってきたしっぽをぐいっとつかみました。

急につかまれたムジナはたまりません。びっくりして逃げ出そうとしますが、がしっとつかんだずいとん坊の手は、びくともしません。ムジナは必死になってドタバタ、つかまるもんかとグイグイグイ。離すもんか、逃がすもんかとずいとん坊。

雨戸をはさんで、双方の力まかせの引っ張り合いが始まりました。行ったり来たりしていましたが、やがて「プチーッ」と鈍い音がして、ずいとん坊は尻もちをつきました。

     053  (ムジナは、アナグマのことですが、タヌキほどの体長があります=大町山岳博物館蔵)

ムジナは逃げて、ずいとん坊の手には、切れたしっぽだけが残りました。夜が明けて朝になると、ずいとん坊は、なんだかムジナがかわいそうになりました。「しっぽを取られて、さぞ困っているだろう。返してやろう」と思いました。ムジナが隠れていそうなところを探しまわりました。

でも、なかなかムジナは見つかりません。坂の途中まで来ると、道端にお地蔵さまが立っていました。目を向けると、花が供えられ、線香の煙が揺らいでいました。ずいとん坊は、はっとしました。

「こんなに朝早くからお参りする人がいるんだ。それに比べると、わしは毎日遊んでばかりいて、すこしも真面目にお勤めなどしてこなかった。……これは、仏さまが自分を戒めるためにムジナの姿を借りて、わしを叱りに来たに違いない」と思いました。

           026                                (地蔵堂の額)

それからのずいとん坊は、見違えるように真面目になって、毎日、朝に夕にお経をとなえては、仏の道にひたすら励んだということです。

 

           * 『 あづみ野 明科の民話 』(あづみ野児童文学会編)を参考にしました。   

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