須坂市博物館が12年前に、市内に残る蔵の上に乗る屋根瓦を特集した企画展を開いています。そのときに小冊子を作り、須坂での瓦の変遷や職人の仕事について写真入りの解説をしています。
その中に、小屋根の上に乗っている瓦鍾馗の写真がありました。写真で見る限りなかなかいい出来の鍾馗さんです。「これはぜひ見てみなければ」と探訪に出かけました。
冊子の写真は家紋を雲水が囲み、その上に瓦鍾馗が乗っていて「新田町 K家」とあります。これだけ手掛かりがあれば、すぐに逢えるだろうと思ったのですが、そうはいきませんでした。
集落と近隣にK姓の宅は7軒ほどあり、くまなく探したのですが見当たりません。新築、改築したようなK家もありません。
となると、何らかの事情で屋根から降ろしてしまったかと探索を断念するしかありません。
外に出ていたご夫婦がいましたので、冊子を示して見たことがないかどうか尋ねました。そうすると「Kさんち(家)はこの家紋じゃない。これはAさんちじゃないか」といいます。
ということで、最後にAさん宅を訪ねると、広い玄関の隅に鍾馗さんがあるではありませんか。あの冊子に載っていた鍾馗さんです。やっと探し当てられたときの喜びは格別です。
Aさん宅では近年家を新築し、「いったん降ろした際に重かったもので傷めてしまい、再び上げることができなくなったため玄関に置いている」とのことです。
それにしても立派な鍾馗さんです。よく見ると、台座の部分に瓦屋の屋号であるヤマ印に一の文字があります。
須坂の蔵には飾り瓦もいろいろとあるのですが、大黒、恵比寿が多く鍾馗はなかなか見かけることはありません。
上も下も同市内で目にした鍾馗ですが、最近上げられた型抜き製造されたものです。
冊子の誤記で回り道をしたとはいえ、家紋が縁で数少ない須坂の鍾馗と巡り合え、すぐ目の前で見ることができたことは収穫でした。屋根から降ろした鍾馗さんが、これからも玄関で悪霊払いしてくれることでしょう。