安曇野市豊科高家(たきべ)に国の登録有形文化財に指定されている旧信濃教育会館があります。
平成2(1990)年に長野市から移築され、現在は信濃教育会生涯学習センターとして市民が一般使用できるようになっています。
建て物は、昭和4(1929)年に完工した偽洋風建築様式の木造2階建てです。外壁はモルタル塗りで、車寄せが建て物に重厚さを与えています。
その車寄せの三面に、ゲッケイジュの枝をリボンで結んだ洋風鏝絵が施されています。デザインはシンプルなものですが、車寄せの重厚感に加え三面に配置された鏝絵が建て物の威厳を増長させているかのようです。
古い蔵造りの建物が建ち並ぶ松本市の中町通り。なまこ壁と白漆喰の蔵の中にあって、大正ロマンの香りが漂うノスタルジックな建て物があります。
天井部の装飾、円弧を描くような丸みをもたせた二階のバルコニーなど周囲とは違った雰囲気と外観が目を引きます。
大手4丁目にあるこの「ミドリ薬品」は、大正10(1921)年創業の医薬品の小売店で、現在の建て物は大正14(1925)年に着工し昭和2(1927)年に完成したということです。
建築物の前面にモルタルや銅板で装飾した壁をつけ、通りから屋根を見せないようにした洋風建築を看板建築と呼びます。関東大震災後、東京下町を中心に始まり、すぐに全国へ広がった建築工法です。このミドリ薬品の建物も代表的な看板建築といえます。
鏝一本でモルタルをさまざまな形に仕上げる左官職人の技により、店の正面を洋風のイメージに仕上げています。
正面の壁は「洗い出し」という工法で塗り、上部に洋風鏝絵を描いています。「薬」の文字をベイリーフが囲み、豪華なガーランド模様が下支えしています。これらの上には、スズランの花が施されています。
少し離れた界隈にも看板建築があり、建て物の正面に鏝絵を掲げた飲食店(凡蔵、大手4丁目)があります。
三輪のバラの花を包み込むようにガーランドが配置されています。ガーランドの両翼にもバラの花があしらわれています。
* 安曇野とその周辺で見ることができる鏝絵を「安曇野の鏝絵」として紹介しています。
次回から洋風鏝絵を何回か取り上げます。また、タイトルを「信州の鏝絵に見る左官職人の技」として、安曇野以外の鏝絵をご紹介します。