権現池の雨乞い~坊主山

坊主山の峰に権現岩(立岩)があり、この岩の苔を取ると雨が降ると伝えられ、日照りの時には、ここが雨乞いの場所になっていました。

ある年のことです。春から、いっこうに雨の降る気配がありません。

村人たちは顔を見合わせては空を見上げ、「弱ったことだいね。もうひと月以上も降らねえずら」「こんなに天気が続いちゃ、沢や池の水も細くなって、いつ田起こしができることだか」「畑だってカラカラに乾いて、土が舞っているわ。これじゃ、なんにも蒔けねえし、こまったことだいねえ」と、ため息をつきながら話していました。

     013_2       (遠方中央に見える高い山が坊主山=1961m。〈 室山山頂から 〉)

ある夜、寄り合いが持たれました。「もう、お天道様に雨乞いするしかねえずらい」ということで、みんながまとまりました。そのため、戸隠まで「お水借り」に行くことになりました。元気な若者四人が使者として選ばれ、庄屋はこの四人にいいました。

「いいかな、お前たちは大事なお水をお借りしたら、『休まず、こぼさず、振り向かず』の‘三ず’を守って行って来てくれよな。これを破ると雨乞いしても、雨は降らねえぞ」。村の大勢が四人を見送りました。

そして、それから三日後、四人がお借りした「お水」を持ち帰りました。大事な水樽が着いたので、次の朝、早くから村人たちが山の神社に集まり、権現岩に水樽やお神酒(みき)、塩、スルメ、野菜、頭付きの魚などを運びあげました。

神主が戸隠の水を岩にかけ、お清めをした後、祝詞(のりと)を始めました。積み上げられた木の枝に火が点けられると、真っ白い煙がモクモクと上がりました。

     258(雨乞い神事の際に神主が用いた七つ道具。右から、冠、祝詞、祝詞袋、芍=堀金歴史民俗資料館蔵)

「わっしょい、わっしょい」と里の方から、千度参りする村人たちの声が響いてきました。神主が「岩に登って、苔をはがしなされや。苔をはがすと神さまが怒って雨を降らしますぞ」と、いいました。

権現岩に村人を代表してきていたものたちが、岩へかき登り、苔をはがして火にくべました。そのたびに、白い煙があがり、お日さまの光がさえぎられました。

「煙がお天道さまを隠したずら」 「煙じゃねえ。雲だ、雲がでてきたぞよ」。 そう言っているとき、ポッポッと雨が落ちてきました。「おお、雨だ。雨が降ってきたぞ。ありがてえー」

          013(雨乞いのとき、龍神を祀り水を掛け千度参りをして降雨を祈願することもあったそうです。写真は神事のときに用いられた龍面で、穂高神社に保存されています)

どしゃ降りの中、みんなが喜びにあふれ、空に向かって手を上げ踊っていました。村人たちの喜びの声がいつまでも聞こえていました。
それから後も、日照りが続くと雨乞いが行われ、今も二百十日前後に、風祭りの神事が行われています。

 

    * 『あづみ野 堀金の民話』(あづみ野児童文学会編)を参考にしました。

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