信州の街道筋に鍾馗さんを探して-4   北国街道(丹波島宿)

善光寺西街道は、善光寺の手前の篠ノ井追分宿までとなります。といっても篠ノ井追分宿は幕府から認められた宿場町ではなく、稲荷山宿と屋代宿との間宿(あいのしゅく)でした。しかし、北国街道と善光寺西街道の分岐点となった為、多くの旅人や善光寺詣での参拝客で大きく発展しました。

善光寺詣でには、前回記した稲荷山宿から篠ノ井追分宿~丹波島宿~善光寺宿を通って善光寺に着くことになります。追分宿から善光寺宿の間は「善光寺街道」との別称もあり信仰の道としても親しまれた街道です。

この善光寺街道(北国街道)に丹波島宿があります。

宿の入り口に、丹波島宿と村の産土神・於佐加(おさか)神社があります。社の前で道は直角に曲がります。枡形です。怪しいものが侵入できないように道を直角に曲げる工夫で、城郭建築に用いられる造りだそうです。

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丹波島宿が、幕府の公用にあてる馬を常駐させた伝馬宿として誕生して以来、今年で400年目になるといいます。地元ではこれを機に、「丹波島宿の遺産マップ」の案内板やチラシなどを宿内に置いて、訪問者に便宜を図っています。

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屋号の表札をつけたり、マンホールや排水溝の蓋なども整備しています。ここに「東日本では珍しく、鍾馗さんがまとまって見られます」(瓦鍾馗研究家のkiteさんの評)。

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宿場跡といっても、今は近代的な新しい住宅が建ち並びます。

建て物が現代的に姿を変えても、代々受け継いできた家(旅籠)の守り神・鍾馗さんが今でも数軒の小屋根に飾られています。この鍾馗さんが宿の西端の家にあります。

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小鬼を足で押さえているこの鍾馗さんも、アルミサッシ枠の窓の前に設置されています。こちらの鍾馗さんは、脇道の突き当たりの家に飾られています。  

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これも突き当たりにあります。

宿の出入り口や脇道から突き当たるところに面した家に掲げることによって宿場への疫病をはじめとした厄介者、邪気、悪霊の類を追い払うことに腐心しました。

この鍾馗さんの飾り方は、京都、奈良などでは珍しいことではないようですが、信州では道祖神を村の辻々に祀り、悪霊の侵入を防ぐという風習はありましたが、集落の入り口や辻々に瓦鍾馗を置いたというのは他に見当たりません。

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こちらは、脇道の角にあたる家です。

そして、ここにある鍾馗さんはいずれも壁面を背にした小屋根の上に飾られています。この飾り方も西日本ではよく見られるということです。

信州では屋根の一番高いところ、つまり大棟に設置されているのがよく見られるケースですが、丹波島宿は違い西日本風に飾られています。

そういう意味で、丹波島宿は信州のなかでも異質と言えるかもしれません。京都などの生活文化の強い影響を受けたのでしょうか。

それにしても上の鍾馗さん、随分と好男子に作られていませんか。

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丹波島宿の奥、つまり善光寺に近い宿の東端に5体目の鍾馗さんがありました。

瓦鍾馗の衣装は、ほとんどが着流しスタイルなのですが、この鍾馗さんはまるで甲冑でもまとっているかのように描かれています。

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そして東西6町(650㍍余)の宿が切れたすぐ近くの宅の蔵の上に、対で上がっている瓦鍾馗。この鍾馗さんが左手にしているのは、打ち取った鬼の首、なんともリアルです。

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反対側の小屋根にあるのが、こちらの鍾馗さん。視線の先に、成敗して転がっている小鬼を睨みつけているようです。止めを刺して、首を刎ねようとしているのでしょうか。

そのようにして見ると対で飾られている鍾馗さんは、同一の鍾馗さんを描いたもので連続的な姿を鬼師が意識的に制作したことが分かります。

地元で出している案内パンフには、「現在も4体が鎮座している」と写真入りで紹介されていますが、実際は7体あることが分かりました。

かつて地元の小学生が宿内の瓦鍾馗を調査した資料がありますが、それと比べると3体が姿を消しています。

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この蔵の大棟に対で乗っているのが、この装飾瓦です。よく見ると、鶴と亀(玄武)、松、打ち寄せる波涛、昇り始めた朝日を背に身構えた姿勢ででんと屈んで構えているのは何者でしょうか?

これは人の心を見計らって悪戯をしかける子鬼「天邪鬼」(あまのじゃく)を表しているのだそうです。この子鬼の性格から転じて、本心に素直になれず周囲と反発する人のことをあまのじゃくと揶揄するようになったということです。

蔵の持ち主の話では、瓦の葺き替えや蔵の維持管理が費用も嵩むうえ、瓦葺き職人もいなくなったことから次の代に継ぐのは難しいといってました。

継げないということになると、これらの瓦はどうなってしまうのでしょうか。

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丹波島宿から少し離れたところに、鯉の滝上りの飾り瓦があります。流れ落ちる滝、遡ろうとしている2匹の鯉のほかに、向こう側(右手)にも1匹の鯉がいます。

丹波島宿が善光寺参詣の入り口にある宿場として、かつて栄えていたころを偲ばせる装飾瓦といってもいいでしょうか。




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