ネズミ除けの猫づら瓦

豊科田沢の土蔵に併設した物置の軒先に、こんなデザインの瓦が飾られていました。何に見えますか?   

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猫面(ねこづら)という鬼瓦の一種で、猫の顔を模っていることから、この名が付いたということです。

「なぜ猫顔の瓦が軒先に?」に答える資料があります。

「鬼面や鍾馗とはその性格が異なりますが、外からの侵入を防ぐという意味では、猫づらもその仲間といえ
ます。猫づらは棟の端を止める鬼瓦よりも簡略な瓦で、その姿が猫の顔の形に似ていることからその名があります。養蚕農家ではネズミ除けのまじないとしてこ
の猫づらをのせました」(『信州の瓦屋と三州の渡り職人~屋根瓦は変わった』 長野市立博物館発刊)    

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安曇野はじめ、信州はかつて養蚕が盛んでした。比較的短期間に現金収入が得られるということもあり農家の副業として「お蚕さま」が飼われていました。         

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昭和31(1956)年の頃の蚕を飼っていた農家の写真です。

一家総出の仕事ですが、写真説明では「かき取ったマユをケバ取り機にかけて、汚れたマユを選別する。このあと乾燥して出荷する」とあります。

猫の顔に「水」の文字を竹べらで刻み、猫の目鼻に見えるデザインにしています。

蚕室が火災に遭うと現金収入の道が閉ざされてしまいますので、水に火除けの願いを込めています。

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しかし、日常的に養蚕農家を悩ませたのは、ネズミによる食害だったといいます。蚕の卵はもちろん、幼虫や蛹(さなぎ=繭玉)まで当たり構わず食べてしまったということです。

このため養蚕農家では、ネズミの天敵である猫を飼って被害の防御に努めたり、猫面瓦をお呪いとして飾ったということです。

今でこそ猫面瓦の数は少なくなって目にする機会も多くはありませんが、かつては蚕室の軒にたくさん見ることができたことでしょう。

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すっかり衰えてしまった養蚕業ですが、養蚕技師が設計した 稚蚕所(ちさんしょ)が安曇野市堀金に残っています。

床が高く、床下に炉を切り、薪で暖めて飼育したということです。 屋根に換気塔がつけられています。

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初めて安曇野市田沢で猫面を見てから数週間後、善光寺西街道の旧桑原宿(千曲市)で見かけた猫面瓦です。

こちらの猫面の顔には紋様が刻まれています。何の模様か分かりません。

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さらに小諸市内でも見かけました。菊花と波があしらわれています。

瓦鍾馗の研究家・服部正実さん(京都市在住)の話では、滋賀県内で猫の顔の部分に帆掛け船を彫ったものを見ているそうです。いろいろなバリエーションがあっておもしろいですね。

* 白黒写真は「懐かし写真館 昭和の街角 大町 安曇野 北安曇」(郷土出版社)から撮りました。

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