穂高・宮城から燕岳への登山口となる中房へ登る途中に大王橋があります。大王とは、安曇野の伝説に残る八面大王を指し、その昔、この一帯を勢力下に置いていたと伝承されています。
近くに、大王が棲んでいたとされる「魏石鬼の岩窟(ぎしきのいわや)」があります。
大正11(1922)年ころまでは木橋で、鉄索を利用した吊り橋でした。中房温泉への湯治や有明山に参詣する信仰者が、この吊り橋を渡ったということです。
現在の大王橋は、昭和30(1955)年に竣工しています。橋は山中にあり、周辺は緑濃く橋の下を流れる中房川も澄んでいます。
しかし、この中房川、もう少し上流に遡ると白濁しているそうです。というのも、湯量の豊富な中房温泉の源泉があり、この温泉湯が川に入り込んでいるからといいます。
昔は、中房の川原を掘ると温泉が湧き出すといわれたこともあったようです。
源泉周辺から数キロ下ってくる途中で、いくつかの支流と一緒になり、温泉の成分も薄まり、澄んだ流れになってイワナも生息しています。渓流釣りをする人から聞いた話です。
いま穂高温泉郷の源泉となる中房温泉から引湯するパイプラインが、道沿いに通っています。
燕岳、大天井岳、東天井岳などの沢水を集めた中房川は、穂高の街中に入ってから乳川(ちがわ)と合流し、穂高川と名前を変えます。
大王橋は、中央部が盛り上がった膨らみがあり、欄干は半円の幾何学模様が並んでいます。単純なデザインが周囲の景色に溶け込んでいて、好感が持てるクラシカルな橋です。
この大王橋の上流部に名前のないウォーキングコースに架かる吊り橋があります。森の香りを吸い込み、沢の音を聞きながら歩くことができます。
橋の上からの眺めは、涼味満点です。